わが国でのHBVの感染経路はHIVと同様に性的接触が多く、特に性的接触によるHIV感染例での合併例が多いので消化器科などとの連携が欠かせない。また、HBV感染症治療がHIV感染症治療に影響を及ぼすことがあるため、HBV感染患者でHIV重複感染の有無を確認することが推奨される。

■重複感染例における抗ウイルス療法の盲点と副作用の影響
HBV感染症治療がHIV感染症の予後を、あるいはHIV感染症治療がHBV感染症の予後を、それぞれ改善するかについては明確ではない。しかし、HBV/HIV重複感染患者におけるHBVの増殖や抗ウイルス薬による副作用発現などはHIV感染症治療に影響を及ぼす。
FTC、3TC、TDFは、HIVとHBVの両者に抗ウイルス効果を発揮するのでこれらの薬剤の投与中止は、HBVの再増殖により重篤な肝細胞障害を起こす可能性がある。
HBV/HIV重複感染患者にB型慢性肝炎の治療で3TC単独投与を行った場合、HBVの耐性化率は投与開始2年後で約50%、4年後で約90%である1)
HAARTの効果があがると肝機能の悪化がみられることがある。HBVの排除が細胞傷害性キラーT細胞などを介していることによるものと思われる。
免疫再構築が起こった患者では、肝炎の再燃によりHBe抗原の早期消失が起きる可能性がある。
全てのPIとNNRTIはトランスアミナーゼ上昇をきたす確率が高く、HBV/HIV重複感染時に程度も頻度も高まる。検査値は治療継続により改善するため、検査値異常の原因や因果関係については、明らかにすることが難しい。一般に、ALTが正常上限の5〜10倍を示した場合は、被疑薬を中止する。ただし、トランスアミナーゼの上昇はHBeセロコンバージョンの予兆でもあり、投与中止前に肝機能検査値上昇の原因を探る必要がある。
 
■重複感染患者の治療
重複感染者は、禁酒、HAVワクチン接種、HBV伝播予防、HBV感染状態のモニターを行うべきである。
耐性HBVの発現頻度が高くなるので、抗HBV活性を有する3TC、FTC、TDFは何れも、単剤投与は避けなければならない。
HBVの治療法はまだ確立されておらず、ガイドラインは適宜改訂される可能性がある。さらに性感染症としてのHBVは垂直感染のHBVとサブタイプが異なる場合があり、治療の必要性や治療反応性も異なることがあるため、今後の臨床試験の結果を待つ必要がある。これらのことから、HIV/HBV重複感染患者の治療については、専門家に相談すべきである。
表18に、HIV/HBV重複感染でHBVの治療が必要な場合の現時点での治療法と、参考として重複感染を前提としていないB型慢性肝炎の一般的治療法を示す。
エンテカビル(ETV)は現在B型慢性肝炎に対する第一選択薬であり、かつてはゼフィックス(3TC 100mg)の単剤投与も第一選択薬であったが、両剤ともHIV耐性誘導の危険性があるため、HIV感染がある場合はHIV感染症の同時治療なしの単剤投与は避けなければならない。HBV治療のためにETVあるいはゼフィックスを単剤投与する場合は、HIV感染症の除外診断が必要である。
 
1) Marina N et al.: Management of patients co-infected with hepatitis B virus and HIV. Lancet Infect Dis 5, 374-382, 2005
 
HIV感染症の治療の必要性
治療方法
TDF+3TC(またはFTC)
を含むHAART
×
IFN-α、Peg-IFN
 
<参考>B型慢性肝炎の治療法1)(HBV単独感染の場合)
 
B型慢性肝炎治療に使用される抗ウイルス薬
イントロン・スミフェロンなど(IFN-α)、ペガシス・ペグイントロン(Peg-IFN)
ヘプセラ(アデホビル、ADV)**、バラクルード(エンテカビル、ETV)、ゼフィックス(ラミブジン、3TC100mg)
国内ではHBV治療の承認は取得していない。
**
ADVのB型慢性肝炎に対する使用は、3TCとの併用にて承認されている。
 
B型慢性肝炎治療ガイドライン
年齢
35歳未満
35歳以上
HBV-DNA
≧7 log copies
/mL
<7 log copies
/mL
≧7 log copies
/mL
<7 log copies
/mL
e抗原陽性
IFN長期間歇
IFN長期間歇
@ETV
AIFN長期間歇
ETV
e抗原陰性 経過観察 経過観察 ETV ETV
★ 進行例はETV
 
B型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法開始基準
ALT値が正常値の1.5倍以上を持続する場合に考慮する。ALT値が正常値の1.5倍以内の場合も異常値が持続する場合は抗ウイルス剤の投与が望ましい。
1)熊田博光 「B型慢性肝炎に対する治療の標準化のガイドライン」 平成19年3月



 米国のデータベース解析によると、HAART導入後のHIV感染者の死亡原因は、AIDS関連と非AIDS関連が半々で、非AIDS関連死の約9割が慢性HCV感染症によると報告されている。HIVとHCVの主な感染経路は血液を媒介するもので、静注薬物使用者や血液製剤による感染例で重複感染が多い。他科との連携、HCV感染症治療のHIV感染症治療への影響を考慮すべきことはHBV重複感染症と同様である。

■HCV感染症の臨床経過
 HCV感染症は急性感染後、20〜40%は自然治癒するが、残りは慢性肝炎となる。慢性HCV感染患者は20年で2〜20%が活動期を経て肝硬変を発症し、その多くが肝癌を合併する。
 
■HIV感染とHCV感染の相互作用
 HIV感染はHCV感染症の進行を早める。メタアナリシスによると、重複感染例の肝硬変への進行率は、HIV非感染患者の約3倍に達する。CD4陽性リンパ球数が少ない患者では、進行率はさらに高くなる。
  HCV感染がHIV感染症の進行に与える影響は、まだ明らかではない。
 
■重複感染のHCV感染症治療開始の基準
 HIV感染合併の場合も、HCV感染症治療の標準ガイドラインに準じる。HCV単独感染の場合、血漿中にHCV RNAを認め、肝生検で架橋もしくは門脈線維化がある場合が標準適応である。ALT値はHCV感染の進行(重症度)を反映するが、HIV感染症合併の場合は必ずしも反映しない。
 CD4陽性リンパ球数が200/mm3以上の患者には推奨されるが、それより少ない患者にはまずHIVの治療を先行し、その後HCVの治療を開始することが望ましい。同時治療も可能だが、服薬剤数や薬剤の毒性、相互作用の点から複雑になることがある。
 
■重複感染のHCV感染症治療
 HCV重複感染例におけるHCV治療は、HCV単独感染の標準ガイドラインに従って行われる。HCV感染症の治療の基本はIFNであり、近年ではリバビリンを併用することが多い。
 HIV/HCV重複感染患者(CD4陽性リンパ球数≧200/mm3)にPEG-IFN+リバビリン併用療法を48週行った臨床試験では、genotype 2/3型のHCVには60〜70%の持続性ウイルス学的著効率が認められたが、genotype 1型では15〜28%と低かった。
 
■HAARTとHCV感染症
 HCVの治療を受けない症例で、HAARTが肝疾患の進行や死亡率を低下させるかどうかは、明らかではない。一方で、重複感染例では抗HIV薬による肝毒性の頻度が高まり、HIV治療は複雑になる。
 
■重複感染がある場合のHCV治療の注意点
リバビリンはddIと併用するとddIの細胞内濃度を増大させて膵炎や乳酸アシドーシスを起こす危険があるので併用してはならない。他のNRTIとの併用でも同様の注意が必要である。
一部のNRTI及び全てのNNRTI、PIには肝毒性の危険性があり、血清トランスアミナーゼのモニタリングが特に重要である。
AZTとリバビリンの併用は貧血を起こすことが多いため、できれば避けたい。
IFN投与に伴う好中球減少やリバビリン投与に伴う貧血に対しては、G-CSFやエリスロポエチンの投与を考慮する。
IFNとEFVの併用は精神神経系症状の増悪を来たすことがあるので、できれば避けたい。

 

 HIV感染と結核は相互に悪影響を及ぼす。HIV感染により、潜伏結核が活動性結核に進行するリスクは約100倍増加する。また結核も、HIVのウイルス量増加と疾患進行の加速に関与する。結核合併例に抗HIV療法を行う場合は、治療の順序や薬物相互作用、肝毒性、免疫再構築による結核発症や悪化に注意をする必要がある。肺結核発症例では、HIV感染の有無の評価が必要である。

■HIV感染者における結核治療
 HIV感染症に合併した結核の治療も、標準的な結核治療法に準ずるが、治療期間が長くなることがある。活動性結核があれば、直ちに治療を開始する必要がある。標準的には、RFP/INH/PZA/SMまたはEBの4剤で2カ月治療後、RFP/INHで4〜7カ月治療する。
 
■薬物相互作用
 RFPはPI、NNRTIの血中濃度を下げるので、一部を除き併用禁忌とされている。併用できない場合はリファブチン(日本未承認)で代用するが、リファブチンの血中濃度が高くなるので用量調節を要する(表20)。また、抗HIV薬、抗結核薬はともに肝毒性があるため、併用の際は特に注意が必要である。薬物相互作用があるとは言え、リファマイシン系薬は結核治療に欠かせない薬剤であり、抗HIV療法を受けている患者では、抗結核薬の投与量の調節や抗HIV薬の変更を考慮する。
 
■抗HIV療法を行っている患者に対する抗結核治療
 リファマイシン系薬の相互作用に特に注意し、最適な結核治療が行えるよう、抗HIV薬の変更も考慮に入れ治療計画を組立てる。
 
■結核合併例に対する抗HIV療法の開始時期
 抗結核療法開始後、早期の抗HIV療法開始は免疫再構築症候群を合併しやすいこととHIV感染症では薬剤による副作用が多いので、HIVと結核に対する治療の同時開始は勧められない。抗結核療法開始後の抗HIV療法の開始期間については議論が多く、ガイドラインによって見解が異なる。
 
CD4値 抗結核治療開始から
抗HIV治療開始までの期間
DHHS
いくつでも
4〜8週後
(CD4<50では同時開始も可)
BHIVA
  0〜100
100〜200
   >200
可能な限り早期に開始
2カ月後
6カ月後
WHO*
  0〜200
200〜350
   >350
2〜8週後
8週後
抗結核治療後(8週後に再評価)
*WHOガイドラインは、リソースの限られた国むけのガイドラインである。
 
■免疫再構築症候群
 免疫再構築症候群とは、HAARTの開始により免疫力が回復し日和見感染症のリスクが軽減した状態で、逆説的に発症する日和見感染である。結核は免疫再構築症候群として発症・増悪しやすい疾患のひとつであり、特に結核治療中にHAARTを開始した場合に多くみられる。重篤でなければ、非ステロイド系抗炎症剤を使用して結核及びHIV感染症の治療を継続する。重篤な場合は、高用量プレドニンで対応するという意見もある。
 
* リファブチンは、厚生労働省・エイズ治療薬研究班(主任研究者 東京医科大学臨床検査医学講座 福武勝幸)より入手可能。
ホームページ : http://www.iijnet.or.jp/aidsdrugmhw/
   
表20 抗HIV薬と抗結核薬(RFP、RFB)の併用可否と投与量
 




■治療以外の介入の必要性
 近年わが国でも、STDの増加に伴い、青年期のHIV感染症の増加が懸念されている。青年期は性的に活発な時期であり、また青年期のHIV感染患者は感染の早期にあるため、 単に治療だけでなく、STD全般を含めた感染予防カウンセリングや正しい知識の啓発等の早期介入が非常に重要である。
 
■STDとHIV感染症
 STDに罹患しているとHIVの感染を受けやすくなり、特に潰瘍病変がある場合は、HIVの感染リスクが男性では10〜50倍、女性では50〜300倍に高まる。また逆にHIV感染症/AIDSがあるとSTDによってはその進行が早く、重症・難治化する傾向を示すものがある。
  特に性的に活発な青年期においては複数のSTDとHIV感染症を合併するリスクが高いことが予想されるので、総合的な検査を考慮すべきである。
 
■思春期・青年期における抗HIV療法
 思春期・青年期における抗HIV療法では、年齢ではなく思春期発達度(Tanner stage)で判断すべきで、早期思春期(Tanner stage1、2)には小児のガイドライン、それ以降の青少年には成人のガイドラインに従った治療を行う。急成長期や移行期には、効果や毒性のモニタリングを十分に行う必要がある。周産期感染の児では思春期到来が遅れることがある。
  思春期以降は成人と同様の臨床経過をたどるので、通常成人のガイドラインに従って抗HIV療法を行う。
 
■青年期におけるアドヒアランスの問題
 青年期HIV感染患者は自己のHIV感染に対する拒絶と恐怖、誤解、医療制度に対する不信、治療効果への不信、自尊心の低さ、未確立のライフスタイル、家族や社会的サポートの不足などの特有の問題を抱えており、アドヒアランスの維持を画るため医学的側面のみならず心理社会学的側面も含めた総合的なケアが必要である。青年期は特にコンプライアンスが不良になることがあるので、注意が必要である。
 
■青年期女性に対する注意点
 わが国ではまだ患者数は少ないが、今後増加が懸念されている。青年期は性的に活発であり、女性の場合はさらに避妊と感染予防について十分に話し合う必要がある。抗HIV薬と経口避妊薬との相互作用についても、情報提供が必要である。また、EFVなどの妊娠に対して悪影響を与える可能性のある薬剤についても注意が必要である。
 

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