HIVは増殖速度が非常に早く、高頻度に変異を起こすウイルスである。そのため、十分な抗HIV療法が行われなければ、薬剤耐性ウイルスが出現する危険性が高い。抗HIV薬の標的酵素(逆転写酵素、プロテアーゼ)に対する作用機序が同じ薬剤(NRTI間、NNRTI間、PI間)では、交叉耐性を示すことも多い。
 こうした点を考えると、実際の抗HIV薬の組み合わせの選択肢は決して多くない。初回治療開始時に、将来の薬剤耐性ウイルス出現を視野に入れ、アドヒアランスの維持や効果の持続性、将来の治療選択肢などについて熟慮したうえで、適切な選択をすることが重要である。


 抗HIV薬に対する耐性検査には、genotype検査(遺伝子型解析)とphenotype検査(表現型解析)の2種類が臨床で使用されている(表15)。
 長期治療歴群での検討では、これらの検査による薬剤耐性の同定と治療の失敗との間に強い相関が認められている。
  ただし、いずれの検査でも、血漿などの検体を採取した時点で検体中に多く(優勢に)存在しているHIV株しか検出できない。そのため、抗HIV薬投与中止後に時間が経過し、野生株が増殖した時点で検査を実施すると、薬剤耐性HIV株の割合が減少しているため、正確な結果が得られない。また、治療継続中であってもかつて投与したことがある抗HIV薬に対する耐性株は検出できないことがあるので、注意が必要である。
  薬剤耐性検査を臨床で使用する際には、その限界を念頭において、抗HIV薬の処方変更や選択を判断しなくてはならない。実際には、専門医に助言を求めるべきである。
 


genotype検査(遺伝子型解析)
HIVの遺伝子の塩基配列を決定し、薬剤の標的酵素である逆転写酵素やプロテアーゼなどのアミノ酸配列の変異の有無から薬剤耐性を推定する(表17)。
phenotype検査に比べ検査法が簡便で、より短い期間で結果が得られる。
標的酵素のアミノ酸変異から耐性を推定するには専門的な知識・経験が必要である。
データ蓄積の少ない新薬などの未知の耐性変異は判定できない。

phenotype検査(表現型解析)
患者から分離したHIVを培養・増殖させ、そのウイルスの増殖を阻止するのに必要な抗HIV薬の濃度を測定する方法で、通常、薬剤に対する感受性はウイルス増殖を50%阻止する濃度(IC50)等で表される。
細菌に対する感受性に類似した判定が行える。
交叉耐性が確認できる。
検査方法が複雑で検査に長時間を要する。
 なお、genotype検査に対しては、2006年4月1日より保険適用となり、抗HIV薬の選択および再選択の目的で行った場合に、3カ月に1回を限度として6,000点が算定できるようになった。



●DHHSガイドラインにおける薬剤耐性検査の実施の推奨
 DHHSガイドラインでは、表16に示す時期に薬剤耐性検査の実施を推奨している。抗HIV療法開始や治療変更を考慮するときのみならず、急性HIV感染症で治療を延期する場合も、早期の検査実施を推奨している。これは無治療期間中に野生株が優勢となり、耐性ウイルスが検出限界以下に減少する可能性があるので、耐性ウイルスが検出可能なできるだけ早期に耐性検査を実施し、その結果をその後の治療開始に活用すべきとの考えである。妊婦では全例に対し治療開始前の耐性検査実施が推奨されている。なお、我が国では抗HIV薬の選択および再選択の目的で行った場合に、3カ月に1度を限度に保険適応が認められている。

表16 薬剤耐性検査のタイミング
推奨
●急性HIV感染症に対して治療開始を決定した場合
(genotype検査が好ましい)
●急性HIV感染症に対して治療を延期する場合も早期の検査実施を
考慮すべきである
●慢性HIV感染症に対して治療を開始する場合
(genotype検査が好ましい)
●抗HIV療法中にウイルス学的効果が失われた場合
●治療開始後のウイルス抑制が不十分な場合
非推奨
●薬剤中止後
●血中ウイルス量<1,000コピー/mLの場合
(DHHSガイドライン. Oct 10, 2006)


 
●我が国における薬剤耐性検査
 我が国では2007年3月にHIV薬剤耐性検査ガイドラインが発表され、表17に示す事例において、薬剤耐性検査の実施が望ましいとされている。

表17
薬剤耐性検査の実施が望ましい事例(我が国の薬剤耐性検査ガイドライン)
(1)HIV感染の新規診断時1)(急性感染症例を含む2)
(2)治療開始時
(3)治療開始後十分な治療効果が認められない時3)
(4)治療中薬剤耐性の出現が疑われた時4)
(5)治療の中断と再開時
(6)母子感染において予防投与を行う時
(補足)針刺し事故など感染者血液への曝露があった場合の予防的措置5)
1)我が国での全国調査(2003-2004年)では、新規未治療症例の約4%に耐性変異が報告された。
2)急性感染の患者にとっては診断確定時の薬剤耐性検査に緊急性があるとは言えないことから、
  薬剤耐性検査を実施の際は費用やその意義について患者に十分な説明を行い、了承を得ることが
  必須である。
3)治療開始後、血中HIV RNAコピー数の低下が認められないか、3ヵ月から6ヵ月を経過してもコピー数が
  1000未満に到達していない場合。
4)@血中HIV RNAコピー数が検出限界以下に到達していたが、治療中に増加して1000コピー/mL以上と
  なった場合。A安定していた血中HIV RNAコピー数が突然増加した場合。B治療中であっても血中
  HIV RNAが検出限界以下を達成できない状態(>1000コピー/mL)が一定期間続く場合。
5)この事例は検査の主目的がHIV薬剤耐性遺伝子検査被験者の診断・治療でないことから補足とした。
 
HIV薬剤耐性検査ガイドライン(2007年3月)HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班
(分担研究者 杉浦 亙)



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