HAARTの効果判定は、治療前の患者の状態によって大きく異なるが、標準的には以下の場合を効果不十分と考える。
 ただし、薬剤変更には慎重でなければならない。現状では、薬剤耐性ウイルスの出現と抗HIV薬剤間の交叉耐性により、将来の薬剤選択にさらに制限が加えられることを十分考慮する必要がある。
  抗HIV療法を十分に行ったにもかかわらず効果不十分な場合の判定と対応は難しく、専門医に意見を求めるべきである。

■血中ウイルス量による判定
治療開始24週後の血中ウイルス量>400コピー/mLの場合
治療開始48週後の血中ウイルス量>50コピー/mLの場合
ウイルス血症抑制後に再び2回以上連続して
血中ウイルス量>400コピー/mLとなった場合

■CD4陽性リンパ球による判定
治療開始1年間でCD4陽性リンパ球数が治療前と比べて
25〜50/mm3の上昇を示さない場合*
治療を行ってもCD4陽性リンパ球数が治療前より低下した場合

*
治療開始後、CD4陽性リンパ球数が上昇し、その後の上昇が鈍化する患者もみられる。


■臨床的判定
 
免疫再構築症候群*を除き、少なくとも3カ月の治療実施後に、HIV関連症状が出現または再発した場合

*
HAART開始後の1週から場合によっては16週前後程でみられる炎症を主体にした日和見感染症、AIDS関連悪性腫瘍、肝炎などの増悪症状。症状は非典型的であることが多い。血中HIVコピ−数の著減とCD4陽性リンパ球の著増に伴うことが多く、免疫応答能の改善に関連していると思われる。多くの場合、HAARTを続行して軽快するが、抗炎症剤や抗生物質/抗ウイルス剤の投与、HAARTの中止を必要とすることがある。




 選択した抗HIV薬が効果不十分な場合、薬剤変更を検討する必要がある。変更の決定や変更する薬剤の組み合わせは、現在使っている薬剤、過去に使った薬剤、さらに副作用や相互作用、薬剤耐性検査結果(抗HIV薬に対する耐性と薬剤耐性検査参照)、アドヒアランス(アドヒアランスが治療の決め手参照)など、さまざまな面から検討しなくてはならない。
 現在の抗HIV療法では、初回治療群の抗ウイルス効果が最大であり、薬剤変更のたびにその効果が減弱することを認識すべきである。そのため、初回治療群については十分
に検討し、できる限りその抗ウイルス効果を維持することが重要となる。一方、治療歴群に対して薬剤を変更する場合は、残された治療の選択肢が少なくなること、初回治療群に比
べて抗ウイルス効果も劣ることなどから、より慎重に行わなくてはならない。実際の変更にあたっては、専門医に意見を求めるべきである。薬剤変更の考え方を表12にまとめた。



   
薬剤変更により、将来の治療の選択肢がさらに少なくなることを考慮すべきである
血中ウイルス量やCD4陽性リンパ球数の短期的な変動だけで安易に薬剤を変更してはならない
アドヒアランスが維持されない限り治療薬剤を変更しても効果は期待できない
薬剤を変更する場合には、軽/中度治療歴群と重度治療歴群で異なる対応をする(下記参照)
変更する薬剤は、過去に使用したことがない薬剤で、かつ過去に使用した薬剤と交叉耐性を示さない薬剤を優先する
薬剤耐性検査結果に基づいた薬剤変更を行う場合には専門医に意見を求めるべきである
副作用などのため薬剤の投与を中止する場合は、すべての薬剤を同時に中止し(EFVを除く)耐性ウイルスの出現を最小限に抑える
薬剤を変更する場合は患者への十分な説明と患者自身による検討が必要であり、薬剤変更の意義とアドヒアランスの重要性、将来の治療の選択肢が少なくなることを患者と医療者の双方で認識すべきである。
   
 
EFVは血中半減期が長いため、すべての薬剤を同時に中止すると数日間はEFVのみ血中に残存し、その間にEFVの耐性が出現したとの報告がある。EFV中止後数日は併用薬の投与を続けた方がよいとの考え方がある。投与継続日数については明らかではない。



 効果不十分の原因がアドヒアランス、忍容性、薬物動態にある場合は、それぞれ適切に対処し、その結果をみたうえで薬剤の変更を考慮する。その際、治療歴をまず確認する。薬剤耐性の再検査を早めに行うように心がける。治療法の選択に当たっては、専門医の意見を求めることが推奨される。


初回治療群もしくは軽/中度治療歴群(参考1参照)で
血中ウイルス量は低い(例 5,000コピー/mL)が、
完全には抑制されていない場合
1剤追加による治療増強(TDFなど)
RTVの併用
完全に新しい治療法に変更する
同じ治療法を続ける場合、血中ウイルス量のフォローアップを頻回に実施
1剤のみに薬剤耐性がある場合
 
1剤を変更する
 
完全に新しい治療法に変更する
2剤以上に薬剤耐性がある場合
 
薬剤クラスの変更、交叉耐性のない薬剤の追加も考慮する(表13参照)


初回治療
推奨される変更
NNRTI 1剤+NRTI 2剤
●PI 1剤または2剤 + NRTI 2剤
(耐性検査の結果に基づいて)
PI 1剤または2剤
+NRTI 2剤
●NNRTI 1剤 + NRTI 2剤 (耐性検査の結果に基づいて)
●代替のPI 2剤(耐性検査の結果に基づいて)+NRTI 2剤(耐性検査の結果に基づいて)
●NNRTI 1剤 + 代替のPI 2剤(耐性検査の結果に基づいて)+NRTI 1剤以上(耐性検査の結果に基づいて)
NRTI 3剤
●NNRTI 1剤 または PI 1剤または2剤+ NRTI 2剤
(耐性検査の結果に基づいて)
●NNRTI 1剤 + PI 1剤または2剤
●NNRTI 1剤 + PI 1剤または2剤+ NRTI 1剤以上
(耐性検査の結果に基づいて)
* 少量RTVによるブースト療法



初回治療群で薬剤耐性が認められなかった場合
 アドヒアランスが良好であることが確認されれば、同じ治療法を続けるか、新しい治療法を開始し、薬剤耐性(genotype)の再検査を早期(2〜4週間後)に行う。
重度治療歴群(参考1参考2参照)
 効果が期待される抗HIV薬があって、まだそれらを使っていない患者での治療のゴールはウイルス血症の再抑制を図る事である。投与できる抗HIV薬が既になく、ウイルス血症が持続している患者では免疫応答能の維持と病態進行の抑止が肝要である。選択肢が少ないか、まったくない場合には、現行の治療法を継続する。一般に1剤だけの追加は避けるが、専門医に意見を求めるべきである。
免疫学的治療失敗(ウイルス増殖抑制効果は認められるが、
CD4陽性細胞の反応が悪い)群
 免疫学的治療失敗(CD4陽性細胞の反応が悪い)例でもウイルス量がコントロールされていれば、治療の変更を要しない場合がある。HIV-2、HTLV-1、HTLV-2の重複感染や薬剤毒性等の有無の評価も必要である。ddIとTDFの併用例ではCD4陽性細胞の反応が悪かったり、細胞数が減少するとされており、免疫学的治療失敗がみられる場合はddIとTDFのうち1つを変更するのが適当と考えられる。抗ウイルス薬の追加や免疫賦活療法(インターロイキン-2など)の効果は実証されておらず推奨されない。



効果不十分と判定された患者群をDHHSのガイドラインに沿って2群に分けた。いずれの治療歴群でも将来の薬剤選択にさらに制限が加わることになるので薬剤変更には充分な配慮が必要である。
患者群 カテゴリー名称
定 義
1. 軽/中等度治療歴群
(limited prior treatment group)
抗HIV薬の治療変更歴が1〜2回あって、薬剤変更による治療効果がある程度期待できる患者群
2. 重度治療歴群
(extensive prior treatment group)
抗HIV薬の治療変更歴が数回以上あって、薬剤変更による治療効果があまり期待できない患者群



[参考2]治療選択肢の少ない治療経験患者に考慮する新しい治療戦略
●RTV併用によるPIの効果増強(血中濃度を上昇させる)
●TDM([参考3]参照)
●以前に使用した薬剤による再治療
(特に副作用のため投与中止となったが、現在は対処法がある場合)
●経験に基づく多剤併用療法
(PI 3剤および/またはNNRTI 2剤までの併用。ただし、患者への負担、忍容性、薬物相互作用の点から、一般的な使い方ではない。またデータが少ないので専門医に意見を求めるべきである)
●交叉耐性の少ない新世代の薬剤(PIのダルナビル〈DRV〉、または新たな作用機序の薬剤(侵入阻害剤のenfuvirtide〈T-20〉:1日2回の皮下注が必要なため、治療選択肢が極めて少ない場合にのみ使用されることもある)



[参考3]薬物血中濃度モニタリング(TDM)
 抗HIV薬のTDMは今のところ、ルーチンに行う検査としては推奨されていない。抗HIV療法には薬物相互作用、薬物動態に悪影響を及ぼす病態(妊娠などでも悪影響がある)、薬剤耐性、有効性と安全性が確認されていない代替療法、薬物濃度に依存する副作用、薬物動態の個人差、初回治療患者で期待した効果が得られない、などの問題がある場合に限りTDMを行う。TDMによる臨床的な改善を示すプロスペクティブ試験はなく、検査方法や検査結果の解釈の難しさもある。治療効果判定はTDMのデータだけではなく、他の情報と合わせて行なう必要がある。抗HIV薬の血中濃度測定については、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「抗HIV薬の血中濃度に関する臨床研究」班(ホームページ http://www.psaj.com)を参照。


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