抗HIV薬はさまざまな副作用を招来することが多く、そのために薬剤の変更を余儀なくされることが少なくない。副作用発現によるアドヒアランスの低下を防ぐためにも、抗HIV薬の副作用について、患者に十分に説明することが重要である。
 重大な副作用については以下に解説し、各薬剤の代表的な副作用を表11に示した(各薬剤の副作用の詳細については付録 抗HIV薬一覧を参照)。

乳酸アシドーシス・脂肪肝・ギラン-バレー症候群様症状(NRTI)
 NRTIでは、慢性代償性高乳酸血症がみられることがある。肝腫脹や脂肪肝を伴う重度の非代償性乳酸アシドーシスを起こすことはまれ(1.3件/1,000例・年:DHHSガイドラインによる)であるが、一旦発症すると死亡率は高い。妊娠後期または分娩後にd4T+ddIを含む抗HIV療法を行った妊婦で、死亡例3例を含む重度の乳酸アシドーシスの報告がある。そのほか、女性、肥満、NRTIの長期使用が危険因子とされている。機序としては、ミトコンドリア障害によるものと考えられている。乳酸アシドーシスを疑わせる臨床症状(胃腸症状、疲労感、呼吸困難、ギラン-バレー症候群様症状など)や臨床検査値異常(高乳酸血症注1)、アニオンギャップ>16など)があれば、急激に病態が進行することがあるので、観察を十分に行い、タイミングを逃さず抗HIV療法を中止すべきである。
  注1)血清乳酸値2〜5mmol/L(18〜45mg/dL)なら慎重に観察も可、>5mmol/L(>45mg/dL)なら全ての抗HIV薬の投与中止を考慮する。


肝機能障害
   HAARTを行っている患者では、肝炎症状の有無にかかわらず、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなどが施設基準値上限の3〜5倍以上を示す肝機能障害が起きることがある。現在のNNRTIおよびPIでは、すべての薬剤に肝機能障害の報告がみられるものの、無症候性の場合が多く、中止や変更をせずに解消することが多い。NRTIでは、まれだが重篤な乳酸アシドーシスを伴う脂肪肝を起こすことがある。NNRTIではNVPで肝炎症状を起こす危険性が高く、致死的となる場合もある。PIではRTVやSQV+RTVで検査値異常が多い。HCVの重複感染などは危険因子である。


高血糖・糖尿病(PI)
 HAARTを受けている患者で、高血糖、糖尿病の新規発症、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病の悪化が報告されている。これらの副作用は、PIとの関連が強い。糖尿病の有無にかかわらず、血糖値上昇は3〜17%に報告されている。糖尿病の悪化や新規発症があっても、重篤でなければ、HAARTの継続を推奨する専門医が多い。


リポジストロフィー/体脂肪分布異常・高脂血症
 HAARTの導入に伴って、リポジストロフィーといわれる体脂肪分布異常が起こる(頻度22〜75%)。脂肪萎縮または蓄積がみられ、インスリン抵抗性、高血糖や高脂血症のような代謝異常と合わせて、リポジストロフィー症候群と呼ばれる。PIとの関連性が指摘されているが、NRTIの長期投与でも増加するとの報告がある。
 総コレステロールおよび低比重リポ蛋白(LDL)、空腹時トリグリセリドの上昇も報告されている。高脂血症は主としてPIでみられ、RTVで増加するが、影響の認められない薬 剤もある。動脈硬化や心血管障害を促す恐れがある。


出血傾向(PI)
 PI投与により、血友病患者の出血傾向が亢進することがある。関節内や軟組織の出血がほとんどであるが、頭蓋内や消化管の重篤な出血の報告もみられる。


骨壊死・骨減少症・骨粗鬆症
 阻血性骨壊死や骨減少症・骨粗鬆症が、HAARTを行っている成人および小児患者で最近報告されている。大腿骨などの壊死は、無症候性のものがHIV患者の5%にあるとされるが、特定の抗HIV療法との関係は明らかでない。高脂血症による間接的な影響のほか、ステロイドの使用との関係が疑われている。骨密度の減少は、HAART導入前のHIV患者でも報告がある。HAART患者では、PI使用群で50%、非使用群で20%の発生率などが報告されている。


発疹
 発疹(薬疹)はNNRTIで最も多くみられる。ほとんどは軽度から中等度で、投与開始後2〜3週間以内に起きる。重度の場合は直ちに投与を中止すべきである。全身症状が現れる場合もある。NVPでは頻度・重症度とも高く、女性ではグレード3〜4の発疹を起こす危険性が男性の7倍とされている。ステロイドによる予防効果は認められず、推奨されない。発疹はPIでも報告されているが、ほとんどが軽度から中等度である。ATVやFPVで発現頻度が比較的高い。
NRTIではABCによる過敏反応(HSR)の一症状として発疹の出現が見られる。ABCによるHSRはヒト組織適合抗原HLA-B5701と関連があることが報告されている。HLA-B5701陽性率には人種差があることが知られており(米国白人:〜8%1)、日本人:0.1%2))、HSRの発現率も人種によって異なる(米国白人主体の臨床試験:約8%(2〜9%)3)、日本人:1.3%4)
   
精神神経系症状
 EFVにより投与初期から50%以上の症例で何らかの精神神経系症状が見られる。症状としては、眠気、傾眠、不眠、異夢、めまい、集中力低下、うつ、幻覚、精神障害・精神病の悪化、自殺念慮などが挙げられる。そのため、就寝前や空腹時の投与が勧められる。多くは投与開始2〜4週で減弱するが、長期にわたる場合もある。精神疾患の既往歴や不安定な精神状態を有する患者、中枢神経系に作用する薬剤を併用している患者への処方は注意が必要である。


1 )Nolan D et al.: J HIV Therapy 8(2), 36-41, 2003
2 )Tanaka H et al.: Clinical Transplants, 139-144, 1996
3)ABC, 3TC/ABC 米国添付文書
4 )Honda H(ACC)et al, 4th IAS Conference, Sydney, 2007, MOPEB005


NRTI
ジドブジン 
AZT/ZDV
食欲不振、貧血、骨髄抑制(汎血球減少、
白血球減少など)、嘔気・嘔吐、倦怠感、頭痛
ジダノシン
ddI
膵炎、下痢、悪心・嘔吐、末梢神経障害、食欲不振
ザルシタビン
ddC
末梢神経障害、膵炎、口内炎、悪心・嘔吐
ラミブジン
3TC
食欲不振
サニルブジン
d4T
末梢神経障害、膵炎
アバカビル
ABC
過敏症(発疹、発熱、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、眠気、
倦怠感、筋痛・関節痛、息切れ、のどの痛み、咳など)
テノホビル
TDF
消化器系症状(下痢、悪心、鼓腸など)
腎機能障害、腎不全
エムトリシタビン
FTC
下痢、浮動性めまい、不眠症、頭痛

NNRTI
ネビラピン
NVP
発疹、中毒性表皮壊死症、皮膚粘膜眼症候群、
発熱、肝機能障害
エファビレンツ
EFV
発疹、眩暈、集中力障害、不眠、悪夢
デラビルジン
DLV
発疹、頭痛、肝機能障害

PI
インジナビル
IDV
腎結石症、嘔気・嘔吐、腎不全、皮膚乾燥症
サキナビル
SQV
消化管障害、頭痛、肝機能障害
リトナビル
RTV
嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振、口周囲感覚異常、
味覚異常
ネルフィナビル
NFV
下痢、発疹、脱力感
ロピナビル/リトナビル
LPV/RTV
下痢、嘔気・嘔吐、肝機能障害
アタザナビル
ATV
間接ビリルビン血症、発疹、PR間隔延長
ホスアンプレナビル
FPV
発疹、下痢、嘔気・嘔吐、頭痛
ダルナビル
DRV
発疹、下痢
●上記以外の副作用も各薬剤で認められているため、各薬剤の使用に際しては必ず製品添付文書等を確認すること(参考:付録 抗HIV薬一覧を参照)


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