2001年以降は治療開始を遅らせる傾向となり、一部では、CD4<200/mm
3
まで治療を待つ医療者もみられる。しかし、症候の有無およびウイルス量とCD4陽性リンパ球数が患者の予後の予測判定に重要であることを示すコホート観察研究から、CD4陽性リンパ球数が200〜350/mm
3
でも、条件に応じて治療開始を推奨する方向となった。すなわち、ウイルス量が高い場合やCD4陽性リンパ球数減少速度が速い場合は、積極的に治療開始を考慮すべきで、必ずしもCD4<200/mm
3
まで治療開始を延期すべきではないとされるようになったのである。
一方、治療効果はアドヒアランスに大きく影響を受ける。つまり、最適な治療開始時期は各患者の個々の状況に大きく影響を受けるので、その時点での最良の治療情報や、治療に伴う副作用その他のリスク、QOLなどについて医療者と患者が十分に検討し、十分な服薬準備を行った上で治療を開始する必要がある。
抗HIV療法を開始するに当たっては、まずアドヒアランス(
アドヒアランスが治療の決め手
参照)を確実にするための服薬指導を行う。
また、治療開始前の血液検査は1回だけでなく、2回ないし3回の結果をみた上で、CD4陽性リンパ球数と血中ウイルス量の変動を考慮して開始を決定する(
表3
)。
表3
未治療患者に対する抗HIV療法の開始基準(推奨)
臨床症状
1)
がある場合
治療開始に際し考慮すべき項目
治療
CD4陽性リンパ球数・血中ウイルス量の数値にかかわらず
開始
臨床症状
1)
がない場合
CD4陽性
リンパ球数
(/mm
3
)
治療開始に際し考慮すべき項目
治療
<200
開始
200〜350
CD4陽性リンパ球数の減少速度が
速い場合
2)
積極的に開始を推奨
3)
血中ウイルス量が高い場合
2)
上記以外の場合
開始を考慮
3)
>350
経過観察
4)
1):
AIDSおよびAIDSに関連する重篤な症状
(2〜4週以上続く発熱や下痢、口腔カンジダ症、10%以上の体重減少など)
2):
CD4陽性リンパ球数の減少速度:>100/mm
3
/年の場合を速いと考える。
血中ウイルス量:10万コピー/mL以下を低い、それ以上を高いと考える。
3):
患者の状態、服薬アドヒアランスへの意識理解度、副作用および薬物相互作用なども考慮する(
アドヒアランスが治療の決め手
参照)。
4):
血中ウイルス量(10万コピー/mL以下を低い、それ以上を高いと考える)が低ければ3〜4カ月に1回程度の検査で経過観察を行い、血中ウイルス量が高ければ頻回に(1〜2カ月に1回程度)検査を行う。
参考) 急性HIV感染に対する注意
AIDS発症期、無症候期に先立つ感染初期(急性期)には、50〜90%に急性HIV感染による症状がみられる。発熱(96%)、リンパ節腫脹(74%)、咽頭炎(70%)、発疹(70%)、筋肉痛・関節痛(54%)などであるが、インフルエンザ様であり、症状のない場合もあるため、見逃されやすい。症状を伴い、感染を疑わせるエピソードが最近あったような患者には、抗体検査と血中ウイルス量の測定を行うことが望ましい。HIV抗体検査が陰性もしくは不確定で、血中ウイルス量が検出可能であれば、急性感染が疑われる。
重篤な臨床症状(髄膜炎、ギラン-バレー症候群様症状、急性肝炎など)を呈する急性感染に対する抗HIV薬の投与も一部で行われているが、まだ限られた成績しかない。
治療開始を遅らせた場合と早期に開始した場合の利点と欠点が挙げられる(
表4
)。治療開始基準(
表3
)に照らしても治療を開始するかどうかに迷うとき、これらの利点と欠点を判断材料とするとよい。医療者のみならず、実際に治療を受けている患者、そして治療開始を検討している患者においても、これらの利点と欠点を充分に考慮する必要がある。
表4 無症候性HIV感染患者に対する治療開始時期による利点と欠点
治療を早期に開始した場合
利 点
●
ウイルスの増殖を早期に抑制できる
●
免疫機能を保持できる
●
無症候期間を延ばすことができる
●
他人へHIVを伝播させる危険性が低くなる可能性がある
欠 点
●
服薬によるQOLへの悪影響がある
●
服薬による重篤な副作用が現れる
●
ウイルスの抑制が不十分な場合、耐性ウイルスが早期に出現する
●
他人へ耐性ウイルスを伝播させる危険性がある(抑制が不十分な場合)
●
選択された治療法の効果がどれ程続くか不明
●
将来使える治療選択肢の範囲が狭まる
治療開始を遅らせた場合
利 点
●
QOLの低下を避けられる
●
抗HIV薬による副作用を避けられる
●
将来に備え、治療選択肢を温存できる
●
薬剤耐性ウイルスの出現を遅らせる
欠 点
●
免疫系の不可逆な破綻が進む危険性がある
●
ウイルスの抑制が難しくなる危険性がある
●
他人へHIVを伝播させる危険性が高くなる
■どちらの治療から開始するか
日和見感染症を合併している場合は、それに対する治療と抗HIV療法のどちらをまず開始するかを、患者の状態によって決定する。合併症の経過が急性の場合、通常、合併症の治療を優先する。
日和見感染症に対する治療から始めたときは、その症状の改善のほか、薬剤の副作用や相互作用、臨床検査値、アドヒアランスの維持が可能かどうかなどを考慮したうえで、抗HIV療法の開始時期を決定する必要がある場合がある(
結核合併例
参照)。
■日和見感染症の再燃
抗HIV療法を開始したら、最大限のウイルス抑制を目標とすることに変わりはない。ただし、抗HIV療法開始後に免疫能が回復すると、日和見感染症の症状が再燃あるいは新たに出現することがある(
免疫再構築症候群
参照)ため、注意を要する。
日和見感染症や悪性疾患を発症した際も、副作用や日和見感染症の治療に大きな支障がない限り、抗HIV療法は中止すべきではない。
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