HIV感染症に対して治療開始を決定したら、原則として、血中ウイルス量を検出限界以下に抑え続けることを目標に、強力な多剤併用療法(HAART)を行う。それにより、HIV感染症の進行を抑え免疫能を保持し、QOLを改善し、HIV感染に関連した臨床症状を改善し、死亡を減らすことを目指す。
 この目標を達成するには、抗HIV療法に対する服薬アドヒアランスが重要である(アドヒアランスが治療の決め手参照)。アドヒアランスが不良になると薬剤の血中濃度が維持できず、ウイルス増殖が十分に抑制されず、耐性ウイルス出現が加速されることとなる。そのほか、表2に示したような点に注意を払う必要がある。



抗HIV療法の目標
血中ウイルス量を最大限かつ長期にわたって検出限界1)以下に抑え続ける
免疫能を回復/維持する
QOLを改善する
HIV関連疾患および死亡を減らす

目標達成のために
抗HIV薬の服薬アドヒアランスを最大限維持する2)
最も適切な治療戦略をたてる
CD4陽性リンパ球数が低下しすぎる前に治療を開始する3)
抗HIV療法をいつ開始するか参照)
将来の治療の選択肢(抗HIV薬)を考慮する
必要に応じて、薬剤耐性検査を実施する4)
1) HIV RNAコピー数の測定範囲(検出限界)は、40〜1×107コピー/mL。
2) 95%以上の服薬率が必要。
3) CD4陽性リンパ球数が200/mm3未満に低下するまで待って治療を開始した場合、
   200/mm3以上で開始した場合と比べて、予後が悪いという成績がある。

4) 薬剤耐性検査をいつ行うか参照



■治療開始時期
 HAART導入後は、それ以前と比べて、AIDS発症率とAIDS関連日和見疾患の発現頻度が著しく減少した。一時期は“Hit HIV early and hard”を合言葉に、早期から強力な抗ウイルス療法の開始が推奨された時があった。
 しかし、治療の長期化に伴い、脂質代謝異常、ミトコンドリア障害などの長期毒性による副作用の発現が報告され、さらにアドヒアランスの長期維持の困難さから薬剤耐性ウイルス出現が加速するなどの問題が明らかとなった。
 さらに進行例でもHAARTによる免疫能の再構築が可能であることが明らかになり、2001年頃には、治療開始を延期する傾向が強くなった。
 その後、患者予後の予測判定に、症状の有無、ウイルス量、CD4陽性リンパ球数が重要であることが明らかにされ、現在では、CD4陽性リンパ球数が200未満になる前に治療を開始するのが望ましく、CD4陽性リンパ球数が200〜350の症例でも、ウイルス量が高い場合、あるいはCD4陽性リンパ球減少速度が速い場合は、治療開始が推奨されている。


■長期継続可能な治療法の重要性
 宿主側の特異的免疫反応刺激、長期毒性の回避などを目標に、HAARTの中断と再開を繰り返す計画的治療中断法(STI:structured treatment interruptions)が試みられてきた。しかし、6,000例の登録を目標とした国際的な大規模スタディSMART(strategies for management of anti-retroviral therapy)studyの中間解析では、治療継続群がSTI群より統計学的に有意の差で優れていることが判明し、試験は中止された。本成績により、STIには臨床的有用性がないことがほぼ結論づけられた。この事実により、長期継続可能な治療法の必要性がこれまで以上に求められるようになった。
 長期継続可能な治療法の条件としては、服薬回数や錠数が少ないこと、ライフスタイルに合わせやすいこと、副作用(特に長期の副作用)が少ないことなどが挙げられる。近年、アドヒアランスや患者のQOLへの影響に鑑み、製剤学的工夫により、配合剤や服薬剤数・服薬回数の少ない薬剤、食事の影響を受けない薬剤などが登場してきた。医療者は、患者のライフスタイルなどを十分に吟味し、服薬負担がより少ない組み合わせを提案していく必要がある。


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