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HIV感染症は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV:
h
uman
i
mmunodeficiency
v
irus)がリンパ球(主としてCD4陽性リンパ球)に感染し、免疫系が徐々に破壊されていく進行性の疾患である。無治療例では、
感染初期(急性期)、
無症候期、
AIDS発症期の経過をたどる。
■感染初期(急性期):
初感染したHIVは、急激に増殖する。患者には発熱、倦怠感、筋肉痛、リンパ節腫脹、発疹といったインフルエンザ様の症状がみられることがあるが、数週間で消失する。
■無症候期:
急性症状消失後もウイルスは増殖を繰り返しているが、宿主の免疫応答により症状の無い平衡状態が長期間続くことが多い。この無症候期でもHIVは著しい速度(毎日100億個前後)で増殖しており、CD4陽性リンパ球は次々とHIVに感染して、平均2.2日で死滅する。
■AIDS発症期:
ウイルスの増殖と宿主の免疫応答による平衡状態もやがて破綻し、血中ウイルス量(HIV RNA量)が増加し、CD4陽性リンパ球数も減少し、免疫不全状態となって、後天性免疫不全症候群(AIDS:
a
cquired
i
mmuno
d
eficiency
s
yndrome)を発症する。
HIV感染症では、血中ウイルス量(HIV RNA量)とCD4陽性リンパ球数が病態の程度や経過を把握する指標となる。そのほか、治療の開始や変更の際に参考となる検査や他の感染症を確認する検査なども重要である。
■CD4陽性リンパ球数
CD4陽性リンパ球数は、HIVによって破壊された宿主の免疫力の残存量を示し、その時点における病態の程度を把握する指標となる。健康成人では500〜1,000/mm
3
であり、HIVに感染し200/mm
3
未満になると免疫不全状態となり、種々の日和見疾患を発症しやすくなる。CD4陽性リンパ球数は、抗HIV療法開始を考慮する際の最も重要な指標である。測定値は変動があるため、数回の検査による判定が必要である。
■血中ウイルス量(HIV RNA量)
血中ウイルス量はHIV感染症の進行予測の指標となる。感染成立後急激に増加した後、宿主の免疫応答が発動すると減少し、感染約6カ月後にはある一定レベルに保たれる。この値をセットポイントと呼び、高値であるほど病気の進行が早い。男性に比べ女性のほうが低値との報告がある。血中ウイルス量は、血中のHIV RNAコピー数で表され、治療開始の判断や抗HIV薬の効果判定、治療変更の判断などに利用される。測定誤差があり、その変動を考慮したうえで評価すべきである(
表1
)。
表1 血中ウイルス量の測定時期と検査意義
測定時期の目安
測定の目的
抗HIV療法施行への活用
急性HIV感染症症状がみられる時
HIV抗体検査陰性もしくは不確定例の診断
HIV感染の診断
HIV感染症と診断された時(急性期を除く)
血中ウイルス量により予後判定の参考とする
治療の開始
または延期の決定
無治療の場合でも3〜4カ月に1度は必ず測定
血中ウイルス量の変動を観察(症状の安定もしくは悪化)
治療開始2〜8週後
治療薬剤の初期効果判定
治療の継続
または薬剤変更の決定
治療開始3〜4カ月後
治療薬剤の最大効果を判定
治療継続中も3〜4カ月に1度は必ず測定
治療薬剤の継続的効果測定
臨床的変化もしくは著しい CD4陽性リンパ球数の低下がみられる時
治療効果をウイルス学的に判定
治療の開始、継続、
変更の決定
ここに示した血中ウイルス量の測定時期は最低限確保しなければならない測定間隔であり、治療の有無・血中ウイルス量にかかわらず、定期的(継続的)に測定する必要がある。
HIV感染症の診断には、血清中の抗HIV抗体やHIV(抗原や遺伝子)の検査が行われる。まず粒子凝集反応(PA法)、ELISA法などの高感度のスクリーニング検査を行う。スクリーニング検査には偽陽性が0.3%ほど認められるため、陽性の場合にはウエスタンブロット(WB)法等とHIV RNA量の確認の検査を行い、診断を確定する。最近ではイムノクロマトグラフ法を用いた15分で結果が得られる簡易迅速抗体検査キット(ダイナスクリーン
®
・HIV-1/2、アボットジャパン社)によるスクリーニング検査が開発され、一部の保健所や医療機関で即日検査が可能となった。但し、この場合偽陽性は約1%である。即日検査導入により検査の利便性が高まり、自発的検査の増加を促し、感染者の早期発見に寄与する可能性が大きいと期待される。また、種々の合併症で医療機関を受診したにもかかわらず、HIV感染が見落とされAIDS発症に至る例も多いことを考慮すると、疑わしい症例に対してはHIV検査を積極的に勧めることが医療従事者に求められる。
即日検査ガイドラインや関連資料は、「HIV検査・相談マップ」ホームページ
1)
上に掲載・随時更新される。
※診断法は日本エイズ学会推奨法(
http://jaids.umin.ac.jp/
)や
即日検査ガイドライン(
http://www.hivkensa.com
)を参照してください。
1)
2001年9月に開設された情報サイトで、保健所などのHIV検査に関する最新情報をわかりやすく提供して いる。(
http://www.hivkensa.com
)
■感染予防カウンセリングの必要性
HIV患者への予防カウンセリングは、治療と平行して行わなければならない。抗HIV療法により血中ウイルス量が検出限界以下に抑えられていても、二次感染の危険性があるからである。パートナーへの二次感染の予防、またパートナーからの別のHIVやSTD感染の予防の必要性(下記参照)やセーファーセックスについて十分理解してもらうために、患者やパートナーと繰り返し話し合う必要がある。感染予防カウンセリングや挙児希望への対応などについては、医師、看護師、カウンセラーなど多職種の連携が必要となる。
パートナーへの影響
HIVの二次感染
自分の健康への影響
別のHIVによる重複感染(治療失敗のリスク)、
別のSTD感染(免疫機能への悪影響、HIV感染症の重症化・難治化のリスク)
■スクリーニング検査で陽性となった被験者への十分な配慮が必要
上述の通りスクリーニング検査には偽陽性が認められるため、検査実施前にこの点を十分説明し、スクリーニング検査で陽性を示した場合は、被験者の心理状態に十分配慮し、陰性である可能性の方が高いことなどを十分説明した上で確認検査を実施することが大切である。特に妊婦では本人のみならず家族やパートナーへの影響も大きく、慎重な対応が望まれる。国内の調査
1)
によると、妊婦における真のHIV陽性率は0.02%、スクリーニング検査陽性の妊婦のうちの真の陽性は約13人に1人であったという。
1)
嶋 貴子(神奈川県衛生研究所)ら、第80回日本感染症学会総会・学術講演会(2006.4.20-21)、#337
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